造形の基本学

美の構成学―バウハウスからフラクタルまで (中公新書) 三井 秀樹 (著)

 

 デザインセンスは、どこか曖昧な感じがして、持っている人は持っているがそうでない人はこの先も磨けないというような印象が私にはつきまとっていた。しかし、本書で説明される構成学はそれを覆してくれる学問である。

 そもそも構成学とは、「造形に共通する形体・色彩・材料に関するそれぞれの特性を明らか」にして体系化し、それを実際の造形に活かすものである。これをしっかりと学んで身につければ、誰でもデザインセンスを磨けるというわけである。

 この学問の基礎は、1919年に設立されたバウハウスというデザイン教育機関に端を発する。18世紀の産業革命から画一化された大量生産に対して建築家などは、製品の規格化と芸術性の選択を迫られていたが、規格化が進む社会を是認しながら芸術性を追求する理念が出現した。この理念をあらゆるデザイナーが共有できるように学問として体系化される必要があった。そんな時代背景の中、誕生したのがバウハウスだった。この学校では、「誰でも造形能力をもっているという前提に立って教育指導」を行い、それまでの芸術の才能は天賦のものであるという美術学校の方針とは決定的に違っていた。バウハウスの教育は具体的な描写教育ではなく、例えば、「造形に対して正しい視野から物を見る造形能力や観察能力を養う」ために、さまざまな材料やテクスチャ、形体・色彩の分析などを進め、造形の性質を追求した。これらの造形分析は、自然などの不定形なものに対して、なされてこなかったが、フラクタル理論の証明によって進められるようになった。フラクタル理論とは、小石や田んぼのひび割れなどの、一見規則性のない形、パターンや現象が、簡単な仕組みで成り立っているとするものであり、これが数式でコンピュータ・グラフィックスによって表現できることが証明された。

 ここまで見てきたように、バウハウスの教育を元にした、あらゆる造形要素を分解して分析する学問が構成学である。そして、そこで明らかになったことを活かして人間が心地よいと感じる造形を再現していくことが可能になる。「美」とはどこか直感的なイメージがつきまとうが、これを科学的方法に沿って表現できるのが驚きだ。著者が「構成教育は万人向けであり、誰でもデザイナーになれる資格を持っている」と断言する所以である。